再生医療をもっと面白くするブログ

細胞治療は炎症がキモ?

今回取り上げますのはこの論文になります。
Vagnozzi, R.J., Maillet, M., Sargent, M.A. et al. An acute immune response underlies the benefit of cardiac stem cell therapy. Nature 577, 405–409 (2020)
http://www.nature.com/articles/s41586-019-1802-2

この論文はDepartment of Pediatrics, University of Cincinnati, Cincinnati Children’s Hospital Medical Center, Cincinnati, OH, USAから出ています!

一言で言うとどんな内容?
心臓における成体幹細胞治療のメカニズムは、急性炎症により引き起こされた創傷治癒反応によるもの!
残念ながら、、特に幹細胞を入れなくても、死んだ幹細胞入れても、化学物質を入れても炎症を起こせばその後の結果は同じだった。。

背景とリサーチクエスチョン
心臓の虚血性障害の動物モデルにおいては成体幹細胞を用いて行う細胞治療は、心機能の再現性のある改善は示されている。
しかしその有効性やメカニズムがよく分かっていない。

検討方法
虚血再灌流傷害後のマウスにおいて成体幹細胞(心臓前駆細胞、骨髄単核球細胞)、凍結融解によって死滅した細胞、または自然免疫応答の化学的誘導剤を心臓内に注入して効果およびメカニズムを検討した。

結果
1、成体幹細胞を注入すると心機能は向上したが、新しい心筋細胞の産生は認められなかった。
2、注入部位にはCCR2+およびCX3CR1+マクロファージの局所的に誘導され、虚血再灌流損傷後の心臓の機能的な回復がもたらされた。
3、メカニズムとしてマクロファージが心臓線維芽細胞の活性を変化させ、境界部の細胞外マトリックス含量を減少させた結果、損傷部の機械的特性を向上させたと考えられた。
4、上記の結果は2種類の異なるタイプの成体幹細胞の他に、凍結融解によって死滅した細胞、または自然免疫応答の化学的誘導剤を心臓内に注入しても同様であった。

感想
今回使っているのは心臓前駆細胞、骨髄単核球細胞です。
個人的には移植細胞の成長因子のパラクライン(傍分泌)が主体なのかと思っていましたが、惹起された炎症が重要なメカニズムであるということでした。
何より、細胞を移植しなくても炎症惹起物質の投与により同様の結果が出てしまったことが驚きでした。
細胞治療の意義、メカニズムから考える最適化を迫られているように思います。
また急性期での境界部の構造的な変化が心機能は改善の要因となっている可能性は示されましたが、長期的な心機能(慢性期)などは示されていません。どのくらい心機能の改善が続くのか気になるところです。

この記事を書いた人
小児科医として心臓に深刻な障害を持つ子供たちを診てきました。移植以外の選択肢となり得る再生医療に可能性を感じ、2019年に渡米。現在米サウスカロライナ医科大学で博士研究員として循環器再生医学分野の研究に従事しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です